2023年1月11日付の日本経済新聞で、「ファーストリテイリング、国内人件費15%増へ 年収最大4割上げ」と1面で報道されました。店舗ビジネスへの波及について考えてみました。
ファーストリテイリングの人件費増加について
(日本経済新聞2023年1月11日付朝刊1面より引用)
「ファストリ本社やユニクロなどで働く国内約8400人を対象に、年収を数%から約40%引き上げる。新入社員の初任給は月25万5千円から30万円に、入社1~2年目で就任することが多い新人店長は29万円から39万円になる」
「東京商工リサーチによると、上場企業3213社の21年度の平均年間給与は605万円で、そのうち900万円以上は110社にとどまる。ファストリの国内で働く従業員平均給与は959万円と国内小売業でも最高水準にある。ただ、国内の総合商社や外資系企業などに比べ見劣りは否めない。海外企業の賃金と比較しても低水準にある」
新人店長の給与水準はともかく、小売業で平均年収959万円は立派な給与水準だと思いますが、この改革で1000万円を超えそうですね。
フランチャイズの収支モデルについて
フランチャイズの加盟店を募集するときに、一般的に示されるのが「収支モデル」です。加盟希望者との商談が大詰めになったときに「参考資料」として個別に示されることが多いのですが、フランチャイズ関連の展示会に行くと、多くのFC本部が募集資料の中に標準的な収支モデルを示していることが多いです。
ペット販売FCの場合(2年前に配布された営業資料より)
こちらは2年前のフランチャイズ関連の展示会で配布されていた資料です。自分がペット(猫)好きなのもあって、資料をスキャンして保管していました。
内容は見ての通りですが、人件費は月当たり90万円(4名程度)、ざっと、店長30万円、残り60万円を3人で20万円ずつという計算になると思います。
人件費として安すぎると思うでしょうが、自分もフランチャイズ本部を立ち上げようかという事業者さんのサポートをする時にはこの位の水準で見積もってきました。2年前は今ほど人手不足が顕在化していなかったので、この資料を見ても大きな違和感はありませんでした。
収支モデルの問題点
収支モデルを示すときには根拠がないとならないのですが、多くの本部では「直営店の平均数値」が使われることが多いです。その数字自体には嘘はないはずですが、実際には臨時的な費用が考慮されないことが多いです。例えば、採用の広告費はいつも支出があるわけでなければ「その他経費」で大まかに計上する形になります。
また、人件費だけでなく仕入原価や光熱費などあらゆるコストが上昇している中では、「過去の実績」では参考にならないです。
上記の収支モデルでは「利益率20%」という試算ですが、人件費が3%あがり、光熱費が10%上がると利益率が10%切ってしまいます。そもそも事業を開始する際に設備投資しているのですから、投資回収できるだけの収益を確保してないとならないはずで、この収支モデルだと正直厳しいはずです。
収支モデルを検討する際の鉄則
フランチャイズ加盟で一番問題になるのは「情報の非対称性」です。募集する本部はそのビジネスのことを知り尽くし、落とし穴になる要素も分かっています。一方の加盟希望者は業界そのものを分かっていないことが多い上、本部からの資料をそのまま信じ込むというか、鵜呑みにする傾向があります。
先ほどの場合だと、「利益が20%も残る」と解釈してしまいがちですが、実際には示されたモデル通りに行くかどうか確証はありません。収支モデルを見たら、以下の通り、自分の感覚で検討してみましょう。
・実際に500万円も売上を見込めるのか
・本当に400万円の支出で店舗を回せるのか
・その収支状況で投資した分を回収していけるのか
・最悪、計画をどのくらい下回っても事業を続けていけるのか
・最初に用意した開業資金で資金ショートすることはないのか
お勧めなのは、実際に収支計画を自分で検討してみて、お金が足りるかどうかを自分で考えてみることです。計画をきちんと立てていても、その通りにならないことが多いわけですが、計画があれば、計画をどこまで下回ると危ないのか予測が立てられます。慣れない商売を手掛ける時には慎重に検討してください。
事業計画の立て方についてアドバイスが必要であればご相談いただければ、こちらでも対応可能です。お気軽にお問い合わせください。
《あとがき》
昨年末の「ガイアの夜明け」を見ていたら、アパホテルが全従業員の給料をベースアップするとか。人手不足も相まって、人に対するコストはしっかりと見積もっておいた方が良いでしょう。